月下美人

詩や小説を書いています。

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第2話 「一つの手掛かり」

勢いで人間界に来た辰箕、どこを探せばいいのか当てもなく彷徨っていた。
辰箕は、真っ黒の袖のないロングコートに黒い長ズボン、二の腕まである長い手袋、左目には額から頬までもある大きな傷。ものすごく目立っていた。視線に気づき振り返れば逃げていく人々。人間界に初めて来た辰箕は、人間界のルールも感覚も何も知らない。妖力を抑え人間の姿になっているのに、なぜ注目されるのだろうと疑問に思った。だが、空腹を感じ一瞬でそんなことどうでもよくなった。辺りを見回し食べ物を探した。コンクリートだらけの街には点々と木が数本あるだけ、草木はほとんどない。

《人間界にはこれほどの人口が暮らしているのに、周辺には木が数本…食不足になってもしかたないか…。しかし、困った。準備をして来なかったから食料がない、どうすれば…》辰箕は悩んでいた。

悩みながら街を彷徨っていると一軒のスーパーにたどり着いた。
明るく照らされた店内、山積みに陳列された数々の食材。辰箕は間違った解釈をした。

《なるほど、自分で採らなくもいいようになっているのか。…助かった。》

陳列された林檎を一つ、また一つと食べていた。近くにいた買い物客は気持ち悪がりそそくさと去って行った。
もう一つと手を伸ばそうとしたとき、後ろから声がする。

「あの!すみません。」

振り返るとそこには、さらっとした肩まである茶色の髪に、ダークグレーのスーツをきた女性が立っていた。

女性「だめですよ!お金払わなくちゃ。盗むんじゃなくて、その場で堂々と食べる人なんか初めて見ましたよ。」

辰箕「金…だと?」

辰箕の左目の傷に気がついた女性は一瞬ビクッとしたものの、

女性「そ、そうですよ。け、警察呼びますよ。」と持っていたカバンの紐をグッと握った。

警察というものを知っていたため、驚いた辰箕はその場から猛ダッシュで逃げ出した。息をきらしながら路地に逃げ込んだ。妖力を抑えるということは、普段解き放っているものを全て体内に抑え込むこと。慣れるまでは体に負担がかかる。あがった息を整えていると、そこへサングラスにあごひげで金属バットを持った男と、ガムをクチャクチャしている男、不精髭をはやした男の三人組がやってくる。

リーダーらしきサングラスの男、
「よお、兄ちゃん!俺たちの縄張りに堂々と入ってくるたぁいい度胸だな。有り金全部おいてきな!」

辰箕「…また金か。そんなものは持っていない。」

サングラスの男「はぁ~…大人しく出してりゃいいものを…しゃーねーな…」

男のその言葉で両サイドの二人の男はニヤッと怪しく笑った。次の瞬間二人は辰箕にむかって走りだす。中央の男もバットをかまえる。《くそっ…こんな時に…》辰箕の顔に一筋の汗が流れる。


日が落ち暗がりの夜道を歩く一人の女性。先ほどのスーパーで辰箕に注意していた女性だ。手には今夜の食事が入った大きめのビニール袋が揺れている。

女性「…買い過ぎた。だってお腹すいてたんだもん!」と独り言を言いながら歩いていた。

すると電柱の陰に、壁にもたれ掛るように座っている人影を発見。酔っ払いかなと思いながら近づく、近くまで来た女性はスーパーで食い逃げした人(辰箕)だと気がつく。

女性「…あ、あの、こんなところで寝ていたら危ないですよ?」と言いながら肩に触れようと手を伸ばす。

辰箕「大丈夫だ。少し休めばなんとかなる。」そう言って女性の手をつかみ払う。

顔をあげた辰箕の顔は血だらけだった。額が切れそこから血が流れていた。

女性「何があったんですか!?休んで何とかなるレベル超えてるわ!!警察と救急車呼ばなきゃ!」

辰箕「や、やめてくれ…大事にしないでくれ。」

女性「…そんなぁ。でも…」と少し困った顔で考え、

女性「わかったわ!じゃあ、私の家すぐ近くだから来てください。立てますか?少しでも手当てしないと。」

そう言って辰箕の腕をつかみヨロヨロと歩き出す。その背後には辰箕たちを眺める人影があった。


しばらく歩くと女性の家に到着。(ガチャッ…)鍵を開け、中に入る。ワンルームの可愛らしい部屋だ。化粧品やブラシ、鏡などがテーブルの上に散らかっている。少し慣れた手つきで手当てをする。

女性「…あの~お名前は?私は、駒村美咲です。高校の教師をしてるんです。」

辰箕「…龍牙。」

駒村「はい。これでOK!酷い怪我に見えたけど…体、丈夫なんですね。」

辰箕「ああ。人げ…いや、普通の人よりは丈夫な方だと思う。」

駒村「あっ!龍牙さん、お腹すいてません?私夕飯買いすぎちゃって…良かったら食べるの手伝ってください。」

辰箕「いいのか…?」

駒村「はい!!」

ガサガサ…買い過ぎたおにぎりやおかずがテーブル全面に広げられる。

駒村「ところで、一体何があったんですか?」

辰箕「三人組の奴らにからまれた。それだけだ。」

駒村「ああ、不良たちですね。最近この辺多いんですよね。困ってるんですけど、どうにもならなくて…。ところで龍牙さんはお仕事は何を?あと歳はいくつなんです?」

辰箕はすくっと立ち上がった、

辰箕「…悪いが質問に答えるつもりはない。手当てありがとう。そろそろ失礼する。」

駒村「えっ!?あっごめんなさい。ずけずけと聞き出すようなことして。」

辰箕「いや。手当てに食事に、何も恩返し出来なくてすまない。」

駒村「あーそんな事はいいんです。手当ては勝手にした事だし、食事も余りそうだったから助かっちゃったし。」

辰箕「そうか、一つ聞きたいんだが…」と言いかけたが言葉をのんだ。

辰箕「いや、何でもない。」そう言い残し部屋を後にした。

部屋に独りになった駒村は、見知らぬ男性を部屋に上げたあげく、一緒に食事までした自分の不用心さに焦っていた。しかし、楽天的な彼女は《久しぶりに寂しかった独りきりの食事をせずにすんだからいいか!!》と危険性を一瞬で忘れるのだった。


駒村の部屋を出てひとり歩く辰箕。猫族の情報が手に入らず焦り「猫族の話を聞いたことあるか」と聞こうとした自分に反省していた。すると前方から声がした。

男「こっちに来るのに結構かかったね…」

辰箕「誰だ!!」電柱の陰に立つ人影がみえる。だが辺りは暗く顔が見えない。先ほど様子を眺めていた男だ。

男「待っていたよ、辰箕。君なら仲間を危険にさらさず、自分自身がこちらに来ると思ったよ。たとえ自分が危険にさらされる事がわかっていても。」

辰箕「おまえは誰だと聞いているんだ。答えろっ!!」そう言いながら耳につけたピアスに手を添える。

男「おっと!それは外さない方がいい。こんな住宅街でその制御装置を外せば死者が出るかも知れないよ。」

そう言いながら男は電灯の下に姿を見せた。銀色に輝く髪に、青く透きとおった瞳、すらっと長い脚。

男「安心してくれ、俺は敵じゃない。君に協力しようと待っていたんだよ。俺は戌族の戌維。」

辰箕「戌維だと?俺の知ってる戌維はもっと爺さんだったぞ。」

戌維「ああ、それは前の戌維だ。今は俺が継いだ。先代は君に…いや、君に変化した猫族に殺されたからね。」

辰箕「そうか。でも何故だ?なぜ俺じゃないと言いきれる。たいがいの奴は『俺じゃない』と言ったところで誰も信じなかった。」

戌維「まぁ、証拠がないんだ仕方ないな。だが、俺たちは違う。他の全てを騙せても、俺たち戌族の鼻は騙せない。君のものを持ち、上手く誤魔化したつもりだろうがほんのわずかに猫族のにおいがした。それから人間のにおいもね。だからこっちに来たのさ。」

辰箕「そうだったのか。そういえば戌族は鼻が利くんだったな。」

戌維「ああ、だから君に協力させて欲しい。魔界を混乱に陥れた奴らを共に捕まえよう。…戌族が危険にさらされるって言うのはなしだぞ。俺たちだって被害を受けている、黙っていられない。」と言い手を差し出した。

辰箕「わかった、よろしく頼む。」そういって、二人は握手をした。

戌維「さっそく俺たちが掴んだ情報を話したいところだが…。まずは、その無駄に目立つ服装を何とかする所からだな。」

そういうと辰箕をマンションまで案内した。

辰箕「ここは?」

戌維「人間界での住処だよ。少しの部下と共に暮らしているんだ。…家は?もしないのなら家に住むといい。」

辰箕「今日来たばかりでまだ決めていない。」

戌維「そうか、なら遠慮はいらない。どうぞ!」

そういって扉を開ける。広いリビングにソファがふたつ向かい合っている。間にはガラスのお洒落なテーブル。綺麗に片付き整頓された部屋。出迎える三人の部下たち、

部下の男「あっ!おかえりなさい、戌維様!!」

戌維「ただいま。街で辰箕と会ってな、今日からここで共に暮らすことになったが大丈夫か?」

部下の女「はい、大丈夫です。場所もありますし、それくらいの蓄えはあります。」


戌維「そうか、よかった。じゃあ、辰箕の服を用意してやってくれるか?」

部下の女「はい、こちらへ。」

そう言うと一室に案内された。部屋にはたくさんの洋服が掛けられ、大きなタンスが幾つも置かれていた。その中から、黒のカッターシャツと、黒のスラックスを出してきた。

部下の女「どうぞ、サイズは合うと思います。」

辰箕「ありがとう。」

上下着替えた辰箕は戌維たちが集まるリビングへ向かう。ソファに腰掛け今日の出来事を戌維に報告している。テーブルの上には温かいコーヒーが置かれている。

辰箕「…待たせたな、これでいいんだろ。」

戌維「ああ。それじゃあ、本題に入ろう。俺たちはここに来て二カ月だ。辰箕が来るまでに出来るだけ多くの情報を集めておくつもりだった。だが、わかったことはひとつだけだ。海洋高校という所にいる。」

辰箕「…海洋高校。」

戌維「俺はその高校を調べるために、生徒に成りすまし捜索している。だが、今だ見つかっていない。」

辰箕「戌維でもわからないのか…。」

戌維「ああ、おそらく人間界に長くいるとにおいが薄れるんだろう。あの高校周辺で魔物のにおいがしたんで調べ
ているんだがな。」

辰箕「…そうか。」

部下の女「あの、もし辰箕様に当てがないのでしたら、戌維様と共に高校に潜入するというのはどうですか?」

辰箕「潜入か…たしかに当てはないな。」

戌維「そうだな、俺もそれは助かる。ひとりで全ての人を調べるのは大変なんだよ。」

辰箕「そうか、わかった。俺もその高校とやらに行こう。」
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